上五島 吉村歯科

総入れ歯の形の話

総入れ歯のお悩みとして、「痛い、外れる、動く。」との相談が寄せられます。今回は、解剖学の専門用語が混じりますが、入れ歯の形からアプローチしたいと思います。
 
※下の総入れ歯の形です。
 
①下の前歯付近
下の前歯の内側に「舌下腺」があります。この部分の封鎖が出来ている事が、外れにくい総入れ歯へと繋がります。
 一方で、前歯の表側です。
唇側には「オ トガイ筋」が付着しているのが特徴です。トレーで型を採る時には、できるだけ口を閉じた状態で、安静時の深さを基準にします。入れ歯は、左右の「オトガイ結節」を覆い、唇側の形を凹面にすることで、唇からの離脱力を避けます。
 
②下の内側
「顎舌骨筋」線部は、顎舌骨筋が付着する鋭利な骨縁部です。
嚥下時に舌骨を挙上する、顎舌骨筋の動きが生じます。また舌が、入れ歯を押さえて、辺縁封鎖が維持されるため、薄くても良いとされています。
「後顎舌骨筋窩」部は、顎舌骨筋の影響から外れる部位です。床縁を弯曲することで、舌を前方に誘導 しやすい形にします。一方で、異物感が強い部位でもあります。 外側を削って薄くします。 
 
③一番奥の部位。
下の総入れ歯の最も奥にあるのが、「レトロモラーパ ッ ド」と呼ばれる凸状の組織です。
 手前側の 1/3は線維性結合組織で、それより後方が軟らかな腺組織です。レトロモラーパッドは後方にいくほど変形しやすいため、手前側1/2から2/3辺りが、総入れ歯の妥当な位置とされています。
 
④下の頬側
噛む力の支持域の確保 として「頬棚」への延長が最も重要となります。「頬棚」は緻密な皮質骨に覆われ、咬合圧に対 してほとんど垂直的に対向しているため、圧を負担する部位となります。型を採る時には、できるだけ閉口して、頬の緊張を解く事がポイントです。
 
※上の総入れ歯の形です。
 
①上顎の奥
「上顎結節」の外側と頬粘膜との間にある間隙を「バッカルスペース」と呼びます。 入れ歯の維持に重要で、このスペースをきちんと入れ歯のピンクの床で充たすことで、辺縁封鎖ができます。また、下顎を横に動かすと、「筋突起」がぶつかって、バ ッカルスペースの幅を制限します。そこで、「下の顎を横に動かして下さい。」と患者さんに伝えて、入れ歯の床の厚みの参考にします。
 
②上の総入れ歯の奥の部分
この奥行きが吸着を左右します。
一般に後ろに延ばすほど、維持力は増します。その代わり異物感が強まり、嘔吐反射を招く事もあります。そのため、患者さんと相談しながら形を決めています。
 
③前歯付近の唇側の厚み
この部位を適切に採ることが、前歯の歯並びにも影響します。
「切歯乳頭」の中央か ら6~8mm前方に前歯の唇側が来るようにします。前歯の見た目と、入れ歯の安定のために必要です。
 
参加文献
コンプリートデンチャー
鈴木哲也 著
デンタルダイヤモンド社
 
参考として、
柔らかい入れ歯の話です。

複製を禁じます 上五島町 吉村歯科