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認知症患者の口腔健康管理は、全身の健康維持において極めて重要な課題です。まずは、認知症と口腔の健康には密接な相互関係があることを認識しなければなりません。
認知症の進行により、患者自身による口腔衛生管理が困難になります。歯磨きの手順を忘れる、うがいができなくなる、義歯の着脱が困難になるなど、日常的なセルフケアの質が低下します。これにより、う蝕や歯周病のリスクが著しく増加し、口腔内環境が急速に悪化する傾向があります。
特に注目すべきは、口腔機能の低下と認知症の関連性です。近年の研究では、咀嚼機能の低下が脳への刺激減少につながり、認知機能低下を加速させる可能性が指摘されています。歯の喪失や咀嚼力の低下は、脳血流の減少を招き、認知症のリスク因子となり得ます。
また、誤嚥性肺炎の予防も大事です。認知症患者は嚥下機能が低下しやすく、口腔内細菌が気道に入ることで肺炎を引き起こすリスクが高まります。定期的な口腔ケアにより、このリスクを大幅に軽減できます。
義歯治療においては、認知症の進行度に応じたアプローチが必要です。初期段階から機能維持を重視し、進行期には介護者への指導を含めた包括的ケアが求められます。また、誤飲リスクを考慮した設計や、着脱を簡便にする工夫が必要です。
今後、高齢化社会の進展に伴い、認知症患者の歯科診療はますます重要になります。医科歯科連携、多職種連携により、患者のQOL向上を目指すことが必要な時代となっているのです。
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